コラム

COLUMN

加藤直樹

選手との距離感

みなさんこんにちは。読売巨人軍スペイン語通訳の加藤直樹です。

以前、現役プロ野球通訳として、業務についてウェビナーでお話をさせていただく機会がありました。その際に「アメリカ人と中南米出身の選手で違いはありますか?」という質問を受けましたが。英語とスペイン語で母国語が違うのはもちろんですが、文化や背景も国によって大きく変わります。担当選手の性格や行動の傾向をふまえて「適度な距離感」を探ることも通訳者として大事な作業の一つです。

◼️個で行動?それとも集団行動?
性格は当然個々で違うもので同じ国の中でも千差万別ですが、アメリカ系の選手と中南米系の選手を行動パターンの違いという点で見るとそれぞれ大まかな傾向はあるなぁというのが私の感想です。例えば滞在先での食事では、アメリカ系選手は他選手と時間を合わせて食べるよりも個々の好きな時間に食事会場に向かって食べる傾向がある一方で、中南米系選手は時間を合わせて同じテーブルを囲んで食べる姿がよく見られます。これは球場移動の際も同様で、アメリカ系選手がそれぞれ一人で別々に移動する一方、中南米系選手はタクシーの乗り合わせであったり、自宅の出発時間を合わせたり、また練習が終わっても他の選手が終わるのを待って一緒に帰ったりすることが多いです。基本的に案内版やメニューなど英語表記がどこにでもある日本なので、英語圏から来ている選手にとって生活一般の行動が難しくないのとは反対に、スペイン語が母国語の選手にとっては英語はあくまで第二言語であるだけでなく、話せたとしても読み書きが得意ではないことも珍しくありません。その意味で、集団でまとまって行動した方が安心感がある、ということも上述したような行動パターンの背景にはあるかもしれません。

◼️春季キャンプ期間の例
実際のキャンプ中の動きを紹介すると、アメリカ系の選手はそれぞれがばらばらの時間で食事し球場移動または球場から帰館していたのに対し、中南米系選手は毎回必ず食事の時間を合わせて、移動も一緒に行動していました。それに合わせるかたちで担当の英語通訳者は必要最低限の情報(食堂営業の時間や練習開始時間など)だけを選手に共有し、あとは通訳者も選手とは別に行動することが多く見受けられました。一方で、中南米系選手を担当していた私は、毎回選手らと食事の時間を確認し、部屋の前で待ち合わせをしてみんなで食事会場に向かい、一緒のテーブルで食す、あるいは球場移動する、というルーティンでキャンプ中は生活をしていました。ただし、もし担当選手が一人で食べたいというような性格であったり、人と合わせたくないということがわかっていれば、英語通訳者と同じように敢えて別行動を取ることをしたでしょう。

◼️選手に合った距離感
上述したことは一例にすぎず、すべての選手に当てはまるものではなく、またどちらが良いか悪いかということでもありません。ただ、通訳者が選手の性格や行動パターンを考慮した上で接することができれば、不要なストレスは両者間で回避できると思っています。例えば一人で行動することが好きな選手に、たとえ良かれと思ってだとしても通訳者が常にべったりと付いてしまうと、却って選手のストレスになってしまいます。反対に、一人で行動に不安のある選手に対して、一人の時間がほしいだろうと勝手に予想して、食事の時間を選手に伝えただけで自分自身は時間をずらして食べていると、通訳者が食事を一緒には取りたくないと思っている、と受け止められかねません。選手と通訳者の間にストレスが発生してしまうと、なかなかお互いが本音で話し合える関係にはなれず、本当に大事な時に必要なサポートができなくなってしまいます。

来日する外国人選手は基本的に担当通訳を選ぶことはできず、球団側があてがうのが日本のプロ野球の慣習です。その意味で、通訳者が柔軟に選手に合わせる姿勢は、選手のストレス軽減や通訳者との信頼関係の上でとても重要です。私自身も、今年は新しい選手を担当することになっていますが、その選手の性格や傾向を早く掴んで、選手に信頼してもらえる通訳者になれるよう日々努めていきたいと思います。

今日の内容も皆さんの参考になれば幸いです。それでは次回お会いしましょう。

加藤直樹

加藤直樹

福島県出身。スポーツメーカー勤務後、独立行政法人国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として活動。その後、ジャイアンツアカデミーコーチを経て現在、巨人軍スペイン語通訳。

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