コラム

COLUMN

前田悠也

第21回:変化球の軌道を表す英語(落ち球編)

投手が投げるボールはさまざまな軌道を描きます。
前回のコラムでは、カーブ、スライダー、カットボールなど、いわゆる「曲がり球」の軌道を表す英語に焦点を当てました。今回はフォーク、スプリット、シンカー、チェンジアップなどの、「落ち球」の軌道を表す英語についてお話します。

まず全ての落ち球に共通する特徴として、途中までストレートと同じ軌道を描き、最後で失速して沈む、という点が挙げられます。ストレートが来た!と思ってスイングしたバッターは、ボールの真上を空振りするか、ボールの上の部分を叩いてゴロに倒れてしまいます。しかし、カウントや試合展開、相手バッテリーの特徴などから落ち球が来ることを予測して、それをすくいあげて安打にするなど、投手と打者の間では高度な頭脳戦が繰り広げられます。途中で失速する際、どの方向に、どれほどの落差で変化するかによって、落ち球の種類が決まります。途中で大きく失速し、使い手によっては打者の胸の高さから地面まで落ちるフォークボール、より速いスピードで、より打者の近くで急速に落ちるスプリット、ストレートに近い球速で、投手の利き手と同じ方向に沈んでいくシンカー(左投手のシンカーはスクリューとも)、真っすぐと同じ腕の振りで打者のタイミングを狂わせるチェンジアップなど、人によって操る落ち球はさまざまです。

投手は捕手と連携しながら、高低(高めと低め)、左右(内角と外角)にさまざまなボールを投げ分け(配球=sequence)、打者をアウトにしようとします。落ち球の場合、この高低、左右の軸に加えて、「奥ゆき」と呼ばれる概念が加わります。これはボールをどのタイミングで意図的に落とし、打者にストレートが来たと錯覚させて、スイングのタイミングを狂わせるかという意味です。この「奥ゆき」を英語では“depth”と言います。直訳すると「深さ」や「深度」となりますが、野球では変化球、とりわけ緩急をつけるために用いられる落ち球の「奥ゆき」を指します。余談ですが、野手の守備陣形で“play deep”と言うと、それは定位置(本来の守備位置)よりも下がって(深く)守ることを意味します。

前田悠也

前田悠也

東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳

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