コラム

COLUMN

前田悠也

第12回:試合中の業務

球団通訳者というと、試合後のヒーローインタビューに呼ばれた外国人選手と共に出てきて横で通訳する姿を思い浮かべる方も多いかもしれません。
たしかにお立ち台で選手のヒーローインタビューを訳すのはこの仕事の醍醐味であると同時に、選手以外の球団関係者でお立ち台に上がる機会があるのは通訳だけですので、球団通訳者の誰もがこの瞬間には特別な感情を抱くものです。
しかしながら、通訳者にとって一番大切な業務は試合中、選手間のコミュニケーションをサポートして、首脳陣から選手に対する指示を的確に伝達することです。

球団通訳者の試合中における業務内容は、担当する選手のポジション、役割によって大きく異なります。
担当するのが野手の場合は、試合開始から終了までベンチに入り、スコアラーから相手投手の特徴を聞いたり、コーチからのバッティングや守備位置、走塁についてのアドバイスを伝えたりします。
選手が打席に立つときは結果が出るようにと祈りながら見守りますが、長打力を誇る外国人選手の場合は厳しい内角攻めに遭ってデッドボールを受けるケースも少なくないため、死球を受けた場合はトレーナーと共にベンチを飛び出して状態を確認します。
また守備に就く際も、打球を追って他の野手と交錯したり、フェンスに激突したりする場合もあるため、選手がベンチにいないときも試合の様子を注意深く見守ります。
担当する選手がベンチスタートの場合、普段は選手の邪魔にならないようにベンチの隅に立っていますが、試合展開や次の回の打順を見て、代打や代走、守備固めで声が掛かりそうな場合には監督やコーチの近くに移動して、出場する準備を指示された場合はすぐさまその旨を選手に伝達できるようにします。

担当選手が投手の場合でも、先発と中継ぎで業務内容が全く異なります。先発投手の場合は初回から選手と共にベンチに入り、イニングが終わるごとに投手コーチからのフィードバックやキャッチャーとの会話を通訳します。
球場やテレビでご覧になったことがある方も多いと思いますが、ピンチを招いた外国人投手のもとにタイムを取って投手コーチが赴く際、通訳も一緒に出ていきます。そのため、徐々にボールが高く浮いてきたり、走者が溜まったりすると、通訳は投手コーチとアイコンタクトでマウンドビジットのタイミングを合わせます。
これは中継ぎ投手に付いている場合も同様ですが、中継ぎ投手の場合はブルペンで待機しているため、試合の推移を注意深く見守り、ベンチから肩を作るように連絡があると、すぐに選手にそれを伝達します。そして登板を指示された場合は投手と共にベンチに移動します。
このように、自分が担当する選手のポジションや役割によって業務内容が全く異なるのも球団通訳者の仕事の特徴です。

前田悠也

前田悠也

東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳

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