COLUMN
第8回:私生活のサポート
日本でプレーする外国人選手にとって、球団通訳者の存在はライフラインと言っても過言ではありません。
野球に関わる内容の通訳、翻訳はもちろんですが、私生活においてもそれは当てはまります。特に初めて日本を訪れる選手にとっては、言語や文化が母国と全く異なる環境での生活を強いられます。
新しい外国人選手が来日してまず私たちがすることは、電車の乗り方を説明することです。ほとんどの選手は母国での自動車を使った移動に慣れていますが、日本でも自ら運転して移動する選手は決して多くありません。百戦錬磨の大リーガー、マイナーや独立リーグで長い下積みを重ねた苦労人など、バックグラウンドは様々ですが、来日したら公共交通機関で移動するケースがほとんどです。
日本の鉄道網は複雑で、乗り換えなども多いため、自宅と球場の往復方法、それぞれの遠征先への移動方法などを説明して覚えてもらいます。
そして一番大事なのが、交通系ICカードを購入してもらうことと、乗換案内のアプリをダウンロードしてもらうことです。そうすることで、毎回券売機で切符を購入する必要がなくなり、また通訳が行動を共にできない時でも目的地まで最短のルートでたどり着くことができます。
近年は半導体不足の影響により、交通系ICカードの販売が途絶えているため、スマホで購入してもらうケースも増えましたが、とある選手は母国のクレジットカードを使って購入を試みたもののうまくいかず、やむを得ず普段は自動車で移動している通訳が自分の交通系ICカードを提供することもありました。
また家族を連れて来日する選手にとっては、妻子の幸福と健康がなによりも重要です。子どもを遊園地に連れていきたいとチケットの手配を頼まれたり、子どもが熱を出したので病院を手配してほしいと夜更けに電話が鳴ったりすることもあります。
また過去には旅行中の選手から、「コーヒーメーカーのスイッチを切り忘れたまま家を出てきたかもしれない。火事になったらまずいので、マンションの管理室に電話して、中に入って確認してもらえないか」と夜中に頼まれたこともありました。いつ選手から連絡が入るかわからないため、就寝中も携帯電話の通知音は常にオンにして、入浴する際もタオルに包んで浴室に持ち込みます。
入団して間もない頃に先輩通訳に教わった「選手のベストフレンド」でいることができるよう、これからも精進していきます。
前田悠也
東京都出身。中学から米国に留学。現在、巨人軍英語通訳